第42回東工大現代講座開催報告

田辺聖子氏「大阪文化と川柳」

附属図書館長 横山正明

    第42回東工大現代講座を,平成15年10月30日(木)16時〜17時30分に,70周年記念講堂を会場として開催いたしました。
    今回は,芥川賞作家であり,文化功労者でもいらっしゃる田辺聖子先生をお迎えし,「大阪文化と川柳」と題した講演を行なっていただきました。
田辺聖子氏     小説家としてはもちろん,源氏物語をはじめとする多くの日本の古典文学を,深い造詣と愛情を持って紹介された数多くの著作でも知られる先生のお話を,直接拝聴できるまたとない機会とあって,学生,教職員,同窓生をはじめ,近隣の住民や川柳の会の方々などを含む計466人の来場がありました。
    先生は,軽妙な語り口で伝統的な日本文学としての川柳の歴史や大阪文化との関わり,そして数々の名句を紹介して下さいました。
    川柳は,江戸時代に,出題された前句に付句を付けて点取りを競う遊技的な俳諧である「前句附け」の点者であった柄井川柳の名を取って命名されたとのことで,江戸の庶民文芸として大人気を博し,その地位を確立したもので,個人の名が文学の一ジャンルに名を残すことは世界でも例を見ないことだそうです。
会場風景     近代に至り,大阪で「番傘」という川柳結社を始めた岸本水府が現れ,本格川柳の普及に尽力し,弟子にも多彩な人物を輩出しているとのことで,この番傘系列の作者の句もたくさんご紹介下さいました。その後,第二次世界大戦後の混乱期を経て現代に至り,川柳が復興してきたことなどを,数々の名句とともにお話いただきました。
    さらに,現代作家の名川柳を,貧乏・会社・病気・ペット・女性・しみじみなどの分野別に紹介されました。先生は,「おかし」の文学である川柳は,岸本水府が主張したようにユーモアだけでなく愛と品位を備えていなければならないと力説され,昨今の狂句まがいのものに対しては,川柳の本質とは趣を異にするものとして賛意を示されませんでした。
    また,東京と大阪の文化の違いについても触れられ,大阪には,まさに川柳に生き,川柳に死すといった文化的土壌があることや,大阪弁は川柳の中で使われて昇華すると思いもかけない効果があるということを例句によって解説して下さり,川柳が大阪の風土や大阪弁の持つユーモアと軽やかさ,柔らかさにぴたりと合い,大阪の日常生活そのものの中に自然にとけこんでいる様子が垣間見られました。
花束贈呈     先生は最後に,このように素晴らしい文学の一分野である川柳を後生に伝えるためにこれからも努力して行きたいという言葉でご講演を締めくくられました。
    日本文学に対する深い愛情と,聴衆に対する心遣いの感じられる先生の語り口が,川柳の世界そのもののようであり,和やかな雰囲気の講演会となりました。本学の無理なお願いにもかかわらず,快く講演をお引き受けいただいた先生に心から感謝申し上げます。
    終りに,この講演会の開催にあたり,多大なるご支援とご協力をいただいた学内関係者,蔵前工業会,近隣在住の皆様方に厚くお礼を申し上げます。

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